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クルマの運転には違いないのだから、自分にもF1カーがドライブできるんじゃないか……そんな考えを持ったことのある読者もいるのではないでしょうか。しかし、今回の特集をご覧いただければ、そんな"夢"も……。Diary英語版を執筆するピーター・ナイガードが、パナソニック・トヨタ・レーシングのチームドクター、リカルド・チェッカレリ博士を直撃!F1カーをドライブすることの過酷さ、そしてトップドライバーたちの肉体の秘密に迫りました!!
コンピュータ性能の向上にともない、近年のF1カーには高度な電子頭脳が搭載されるようになった。コーナーではトラクションコントロールシステムが作動して、コンピュータが自動的にリアタイヤのスライドを抑制するよう、エンジンの点火を制御。エンジンのドライバビリティも格段に向上し、立ち上がりでの加速は非常に滑らかなものとなった。そのため、車載カメラを通して見えるF1カーのドライブは、まるでテレビゲームでも見ているかのようにスムーズで、ファンの中には内心、「自分でも運転できるのではないか」と感じている方もいるのではないだろうか。
しかし、そうした考えが正しくないことを、今回の取材を通して、私は改めて認識することになった。
F1界で長年ドライバーたちの健康面をサポートしてきたリカルド・チェッカレリ博士の次のような言葉から、それはおわかりいただけるだろう。
「F1カーが高性能に発達した現在でも、コクピットの中でドライバーは、非常に過酷な条件でドライブしています。例えばレース中、ドライバーの平均心拍数は
1分間に160回を数えます。この状態が約1時間半続くスポーツは、マラソン以外にはありません」。
マラソンがランニングシャツとランニングパンツで走ることができるのに対し、F1ドライバーは耐火性を施したインナーと分厚いドライビングスーツを着用しなければならない。しかも、空力を重視しているため、身体はすっぽりコクピットの中に隠れ、風による冷却はほとんど見込めない。そのため、
レース中には3リッター以上の水分が失われるという。脱水症状がいかに危険かは、例えばオリンピックのマラソンで、意識を朦朧とさせながら走り続けるランナーを見たことがある人なら、おわかりいただけるだろう。
だからドライバーたちは、レース当日は朝からスペシャルドリンクをこまめに摂取し、ゆっくりと体内の水分量を増やしていく。よくレース2時間前のドライバーズパレードで、ドリンクボトルを手にしている光景を見かけるのは、単にノドが渇いたからではない。水分補給のために、ときにはかなり無理をして飲んでいるのである。
![[写真1]](img/pic_01.jpg)
1分間に160回を数えます
平静時の一般人の心拍数は約60回。F1ドライバーのそれは45?50回。つまり平静時の3倍以上の鼓動で、レースを戦っていることになる。
![[写真2]](img/pic_02.jpg)
3リッター以上の水分が失われる
レース中も水分を補給するため、約1リッターのドリンクを特殊な容器に入れてコクピット内に搭載し、走行中に水分を補給している。
![[写真3]](img/pic_03.jpg)
Gフォース
"G"は、重力加速度の単位。F1ドライバーはその負荷に耐えるため、写真のようなトレーニングをして首などを鍛えている。
肉体的なストレスは、暑さだけではない。F1カーが高性能になって、コーナリングスピードが増加すればするほど、ドライバーにはコーナリング
Gフォースが加わる。いわゆる、横Gである。高速コーナーでは4Gにも達するドライバーへの横G。ヘルメットをつけた状態の頭の重さを6kgとした場合、コーナリング中のドライバーの首にかかる負担はその4倍、じつに25kg以上にも達する。F1ドライバーの首は、その負荷に耐え、頭部を直立させているわけだ。
ドライバーにかかる横Gは、首だけではない。05年に初開催されたトルコのイスタンブール・サーキットの8コーナーは、ほぼ全開で180度回り込む複合コーナーである。ドライバーはここで約3.5Gの横Gを左側から約6秒間受け続けたわけだが、その間ドライバーは横Gによって、無呼吸状態でのドライブを強いられていたのである。
高性能なカーボンブレーキを使用するF1カーに初めて乗ったドライバーが最初に驚くのが、その減速力である。そして、そのブレーキング時にドライバーには、左右ではなく、前後のGフォースが加わる。このGフォースは時に左右にかかるGフォースよりも大きくなるときがあり、それは5Gにも達するという。
さらにスパ-フランコルシャン(ベルギーGP)など高低差があるサーキットでは上下にかかるGフォース、いわゆる縦Gが発生する。横Gに比べ、稀にしか体験しない縦Gを受けながら、ドライバーは難しいペダル操作を強いられることになる。しかし、それでもドライバーは、あの"オー・ルージュ"を、強靭な肉体と、そして勇気を持って、全開で駆け上がっていくのだ。
