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Vol.01 Diary英語版のピーター・ナイガードが直撃取材!~F1ドライバー、その肉体の秘密に迫る!!

マラソンランナー+ボクサー+パイロット=F1ドライバー!

もうひとつ、F1ドライバーがマラソンランナーと決定的に異なる点がある。それは、F1ドライバーは肉体的なストレスだけでなく、精神的なストレスをレース中に受けていることだとチェッカレリ博士は指摘する。

「レース中、ドライバーの心拍数がもっとも高くなる瞬間は、じつはスタート直後なんです。スタート直前、ドライバーの心拍数は緊張によってアドレナリンが大量に排出され、140~150(1分間)に達します。そして、スタート直後のポジション争いを経て、ブレーキングしながら1コーナーへ進入していくとき、ドライバーの心拍数は180回以上にも達するのです。そして、その後[4]140~150回レベルの鼓動が続きます。ドライバーの心拍数がもっとも低くなるのは、ピットストップ時ですが、それでも110回を下回ることはありません」

[4] 140~150回レベルの鼓動が続きます

この心拍数のグラフは95年のあるレースで実際にドライバーに心拍数レコーダーを装着させて、記録したものである。グラフ左がスタート時で、右端がチェッカー時。縦軸は心拍数で一番下が80回で、その後10回ずつの刻みで最高は180回となっている。これを見ればわかるように、ドライバーの心拍数はほとんど140回以上の部分で推移している。このドライバーがこのレースで120回を切ったのは2回で、最初はペナルティストップ、2回目は最初のピットストップ時である。最後のピットストップでは順位争いが絡んでいたのか、肉体的なストレスがないにもかかわらず、心拍数は140回を割らなかった。

なぜ、F1ドライバーは高性能なF1カーに乗りながら、これほどまでに精神的ストレスを受けるのだろうか。

「それは[5]ステアリングに付いているボタンの数を見ればわかるでしょう。以前のドライバーたちは運転しにくいF1カーを力でねじ伏せていましたが、現在のドライバーは高性能なF1カーを適正な状態でドライブするために、レース中にピットから出される無線での指示を受け、頻繁にステアリング上のボタンやダイヤルを操作しなければならなくなりました。これだけ複雑な作業を、過酷な肉体的ストレスを受けながら行うスポーツは、ほかにありません」

例えばTF105のステアリングで言えば、ボタンは左側に7つ、右側に7つ。そしてダイヤル式のスイッチが中央に6つ備わっている。つまり、全部で20個のボタンをパナソニック・トヨタ・レーシングのドライバーは、レース中に使いこなさなければならないのだ。しかも、ときには自分の意思ではなく、ピットからの指示によって、それらを操作しなければならない。それも平均時速200km/hという状況の中で、だ。だから一瞬の判断ミスが事故につながるのだ。F1ドライブと事故は、常に隣り合わせであり、時に生死を賭けた戦いともなるのである。

04年のイギリスGPのときのことである。このレースでトゥルーリは終盤にトラブルでクラッシュしてしまった。このときのデータを解析したチェッカレリ博士によれば、クラッシュの瞬間、トゥルーリの心拍数に大きな変動は見られなかったという。これはレース中、F1ドライバーがすでに高い心拍数でF1カーをドライブしていることが主な要因と考えられるが、そもそもF1ドライバーが持っている危険に対する認識が、私たち一般人が持っているものと大きく異なっていることも関係しているのではないだろうか。

こうした過酷な条件の中でF1カーをコントロールするF1ドライバーを、チェッカレリ博士は次のように例える。

「医学的な見地から見ても、F1ドライバーは、マラソンランナーに匹敵する心肺能力を持ち、ボクサー並みに鍛えられた鋼の筋肉を身にまとい、さらに戦闘機のパイロットと同等の頭脳を備えた、スーパーアスリートです」

ここまでのチェッカレリ博士の話を聞いて、それでもなおF1カーをドライブすることが簡単だと考えている方がいるだろうか。このオフシーズンの間にも、彼らF1ドライバーたちは毎日4時間もの[6]トレーニングを積み、カロリーを管理した栄養プログラムを組んでいるのである。なぜなら、ワールドチャンピオンになるためには、世界最高のF1カーとともに、そのF1カーを少しでも楽に乗りこなせるだけの、世界最高の体力と精神力を手に入れなければならないのだ。クルマの運転といえども、我々のそれとは似ても似つかないものであるということが、おわかりいただけただろうか。そう、F1ドライバーとは、ステアリングを握るスーパーマンなのである。

[写真5]

[5]ステアリングに付いているボタン
これはTF104のステアリング。これらの操作を含め、常に緊張した状態でいることも、心拍数が高い要因となっている。

[写真6]

[6]トレーニングを積み、カロリーを管理
オフシーズンのトレーニングは多岐に及ぶ。心肺機能を高めるランニング、首や上半身の鍛錬など、シーズンを戦い抜く身体を作り上げる。

リカルド・チェッカレリのプロフィール

イタリア・ピサ大学の医学部を卒業したチェッカレリは、その後キエティ大学でスポーツ医学を専攻。89年にレイトンハウスのチームドクターとしてF1界に足を踏み入れる。その後、イタリア系のチームドクターを歴任し、00年からパナソニック・トヨタ・レーシングのチームドクターとなり、ドライバーだけでなく、チームスタッフの健康管理も行っている。またチームドクター以外にも、パーソナルドクターとして、これまで40人以上のF1ドライバーの面倒を見てきた。97年から00年までは、トゥルーリのパーソナルドクター兼トレーナーも務めている。

そしてチェッカレリは、F1に初めて医療リサーチを導入。心拍数レコーダーを開発し、ドライバーに装着させてレース中の心拍数を計測したり、レース開始前と後の血液検査を実施するなどしてきた。

パナソニック・トヨタ・レーシング加入後には、心拍数に加え、呼吸数、体温、心電図のデータ収集に成功。05年からはそれらの生物的データをF1カーのテレメトリーデータと同じようにデジタル信号によって、リアルタイムでピットに送信できるシステムを開発。ドライビング中の呼吸法やレース前のコンディショニングに役立てている。